会計・税務の資格と、担える仕事の範囲

会計・税務の分野には、簿記検定・税理士試験・公認会計士試験という3つの試験があります。どれも「会計の知識を測るもの」とまとめられがちですが、測っている対象も、合格したあとに何が起きるかも違います。

そしてもう1つ、資格を持っていると何ができるようになるのかという論点があります。会計・税務の仕事には、資格がなければ行えない範囲がはっきり定められています。

この記事では、この2つ——それぞれの試験が何を測っているのかと、資格の有無で仕事の範囲がどう変わるのかを、公的機関の公表情報にもとづいて整理します。

簿記検定は、級ごとに違うものを測っている

商工会議所の簿記検定は、級によって想定しているレベルが分かれています。

何を測っているか
3級基本的な商業簿記。小規模企業における企業活動や会計実務を踏まえ、経理関連書類を適切に処理するために求められるレベル
2級高度な商業簿記・工業簿記(原価計算を含む)。財務諸表の数字から経営内容を把握できるレベル
1級極めて高度な商業簿記・会計学・工業簿記・原価計算。会計基準や会社法などの企業会計に関する法規を踏まえ、経営管理や経営分析を行うために求められるレベル

級ごとのレベル定義は商工会議所の検定試験(簿記)に級別のページとして示されています。

商業簿記と工業簿記は、見ている方向が違う

出題科目の名前として並ぶ2つですが、扱っている対象が別のものです。

  • 商業簿記——購買活動や販売活動など、企業の外部との取引を記録・計算する技能
  • 工業簿記——企業内部での部門別・製品別の材料や人力などの資源の投入を記録・計算する技能

外に向かって報告するための技能と、内側を管理するための技能、と言い換えられます。3級は商業簿記だけですが、2級から工業簿記が入ります。級が上がるときに、量が増えるだけでなく、見る方向が1つ増えているという構造です。

税理士試験は、5科目を積み上げていく

税理士試験は、簿記検定とは合格までの形が違います。

会計学に属する2科目と、税法に属する3科目の、合計5科目に合格することで試験の合格者となります。税法科目は複数の候補から3つを選ぶ形で、所得税法か法人税法のいずれかを含める決まりになっています。

制度の全体像は国税庁「税理士試験の概要」に示されています。

1科目ずつ受けられる

ここが簿記検定と最も違うところです。

税理士試験は科目合格制で、5科目を一度に受ける必要がありません。1科目ずつ受験して積み上げていくことができます。

働きながら受験を続ける人がいるのは、この仕組みがあるためです。「合格したかどうか」が5科目そろって初めて決まるのではなく、科目ごとに決まっていくという設計になっています。

受験資格は、科目によって違う

会計学に属する科目(簿記論・財務諸表論)

受験資格の制限がありません。令和5年度(第73回)試験から見直され、誰でも受験できるようになりました。

税法に属する科目

学識・資格・職歴・認定のいずれかの要件を満たす必要があります。具体的な要件は国税庁「税理士試験受験資格の概要」に示されています。

つまり、税理士試験に入る入口は、会計科目の側が開いているという形になっています。

なお試験以外の経路として、学位による試験科目の免除制度もあります。改正後は、税法または会計学に属する科目のうち1科目について合格水準に達した人が、その科目に関連する研究について国税審議会の認定を受けることで、残りの科目が免除される形になっています(国税庁「試験科目の免除について」)。

簿記1級は、税理士試験の受験資格につながる

2つの試験は、ここで接続します。

簿記検定1級に合格すると、税理士試験の受験資格が得られます。 これは商工会議所が1級のレベル説明の中で示している内容です。

上で見たとおり、税法科目には受験資格の要件があります。簿記1級は、その要件を満たす経路のひとつになっているということです。

この接続は、2つの試験を別々のものとして見ていると気づきにくいところです。 簿記検定は級を上げていく試験、税理士試験は科目を積み上げていく試験、と形は違いますが、片方の到達点がもう片方の入口につながっています。

試験の合格は、資格者になる要件の1つ

税理士と公認会計士については、試験に合格したことと、その資格者として仕事を始められることが、別に定められています。

公認会計士の場合

金融庁は、公認会計士として業務を営むために次の要件をすべて満たしたうえで、日本公認会計士協会の名簿に登録を受けることが必要だと説明しています(公認会計士法第3条、第17条、第18条)。

  1. 公認会計士試験に合格した者(免除された者を含む)であること
  2. 実務経験(業務補助等)の期間が3年以上ある者であること
  3. 実務補習を修了し、内閣総理大臣の確認を受けた者であること

この整理は金融庁「公認会計士の資格取得に関するQ&A」(令和5年4月3日付・令和6年11月6日更新)に示されています。試験の合格は、3つの要件のうちの1つという位置づけです。

税理士の場合

税理士も、名簿への登録という工程があります。登録は日本税理士会連合会が行い、申請書類は税理士事務所を設けようとする地区の税理士会に提出することになっています。

登録には、会計に関する事務(貸借対照表勘定および損益計算書を設けて経理する事務)などに従事した期間についての要件が定められています。期間や手続の詳細は地域ごとの照会先が案内されているため、国税庁「税理士の登録」を確認してください。

また、税理士となる資格を有するのは税理士試験の合格者だけではありません。 試験を免除された者、そして弁護士および公認会計士も含まれます。

資格を持つと、何ができるようになるのか

ここから、仕事の範囲の話に移ります。

国税庁は、税理士の業務を次の3つとして説明しています。

区分何をすることか
税務代理税務署などに対する申告や、調査・処分に関する主張を、本人に代わって行うこと
税務書類の作成税務署などに提出する申告書などの書類を作成すること
税務相談申告や書類の作成に関して、税額の計算のもとになる事項の相談に応じること

区分の名前と範囲は国税庁「税理士制度のQ&A」の2に示されています。

3つ目の税務相談は、名前の印象より範囲が広いところです。書類を作らなくても、申告に向けた計算のもとになる事項について相談に応じれば、この区分に入ります。

この3つは、資格を持つ人でなければ行えない

上の3つは、次のいずれかに当てはまる人・法人でなければ行えません。

  • 税理士
  • 税理士法人
  • 国税局長に通知した弁護士、および弁護士法人

弁護士であれば当然にできる、というわけではありません。 通知という手続きを経て初めて税務の仕事に入れる、という形になっています。

無償でも違反になる

線引きを考えるうえで、ここがいちばん見落とされやすいところです。

税理士業務にあたることを行えば、報酬を受け取っていなくても違反になります。 有償か無償かは判断に関係しません。

つまり「無料だから大丈夫」「知り合いに頼まれただけだから」という整理は成り立ちません。判断されるのは、行った内容が3つの区分に入るかどうかだけです。この範囲の外にいる人や組織が税理士業務を行うと税理士法違反となり、罰則が設けられています(国税庁「税理士法違反行為」にせ税理士への注意喚起)。

記帳代行は、この範囲の外にある

逆の側も、はっきりしています。

税理士業務に直接関係しない記帳代行は、税理士法違反にあたりません。 帳簿への記録そのものは、上の3つの区分とは別のものとして扱われています。

ここが、会計・税務まわりの仕事の幅を作っている部分です。同じ「数字を扱う仕事」でも、申告に向けて税務署へ出すものに関わるかどうかで、資格の要否が変わります。

帳簿に取引を記録する、試算表を作る

税理士業務に直接関係しない範囲であれば、資格の有無は問われません。

申告書を作成する、税務署へ出す書類を作る

税務書類の作成にあたります。資格を持つ人でなければ行えません。

申告に向けて、税額の計算のもとになる事項の相談に応じる

税務相談にあたります。報酬を受け取っていなくても同じです。

よくある質問

簿記2級と3級では、測っているものがどう違いますか

2級から工業簿記が入ります。3級は基本的な商業簿記で、企業の外部との取引を記録・計算する範囲です。2級はそこに、企業内部の資源の投入を扱う工業簿記が加わり、財務諸表の数字から経営内容を把握するレベルが想定されています。

税理士試験は、5科目すべてに合格しないと意味がないのですか

科目合格制なので、合否は科目ごとに決まります。1科目ずつ受験して積み上げていく形です。税理士となる資格そのものは5科目の合格が必要ですが、途中の科目の合格が消えるわけではありません。

公認会計士試験に合格すれば、すぐに公認会計士として働けますか

金融庁の説明では、業務を営むには試験の合格・実務経験3年以上・実務補習の修了という3つの要件をすべて満たし、日本公認会計士協会の名簿に登録を受けることが必要とされています。試験の合格は、そのうちの1つという位置づけです。

他人の確定申告書を代わりに作るのは、無償でも問題がありますか

税務書類の作成にあたるため、資格を持つ人でなければ行えません。報酬の有無は判断に関係しません。国税庁も確定申告書等作成コーナーで、税理士等でない方が他人の確定申告書等を作成することは法律で禁止されていると案内しています。

記帳代行だけを請け負うことはできますか

税理士業務に直接関係しない記帳代行であれば、税理士法違反にはあたりません。ただし、そこから申告書の作成や税額の計算に関する相談へ踏み込むと、3つの区分に入ります。

まとめ

  • 簿記検定は、級ごとに測る対象が変わる。 3級は基本的な商業簿記、2級から工業簿記が加わり、1級は会計学や原価計算まで含めて経営分析までを想定しています
  • 商業簿記と工業簿記は、見ている方向が違う。 外部との取引を記録するものと、内部の資源の投入を記録するもの
  • 税理士試験は科目合格制で、1科目ずつ受けられる。 合否が科目ごとに決まるという点が、簿記検定と最も違うところです
  • 税理士試験の受験資格は、科目によって違う。 会計科目は制限がなく、税法科目には要件があります。簿記1級はその要件を満たす経路のひとつです
  • 税理士・公認会計士は、試験の合格が要件の1つ。 実務経験と名簿への登録という工程が別に定められています
  • 仕事の範囲は3つの区分で決まる。 税務代理、税務書類の作成、税務相談。この3つに入るものは資格を持つ人でなければ行えず、報酬の有無は関係しません
  • 記帳代行はこの範囲の外にある。 税理士業務に直接関係しない範囲であれば、資格の有無は問われません

会計・税務の職場を見るときは、その仕事が「税務署へ出すもの」に関わるかどうかが、ひとつの境目になります。同じ数字を扱う仕事でも、この境目のどちら側にあるかで、求められるものが変わってきます。

職場そのものの選び方については、会計事務所への転職で後悔しないためにで整理しています。