税務調査の手続きと、税理士が関わる位置
会計事務所や税理士法人の求人には、業務内容として「税務調査の立会い」が並ぶことがあります。ただしそれが具体的にどういう手続きの中にある仕事なのかは、求人票からは読み取れません。
税務調査には、法令で定められた手続きがあります。通知の仕方、通知される項目、終わり方までが決まっています。 そしてその手続きの一部が、税理士に対して行われる形になっています。
この記事では、税務調査の手続きと、そこに税理士が関わる位置を、国税庁の公表情報にもとづいて整理します。
税務調査は、原則として事前に通知される
まず前提です。税務調査に先立って、課税庁は原則として事前通知を行うこととされています。
国税庁は、実地の調査を行う場合には、原則として、調査の対象となる納税義務者および税務代理人の双方に対し、調査開始日前までに相当の時間的余裕をおいて、電話などにより通知するとしています。
つまり「いきなり来る」のが原則ではありません。 順序としては通知が先にあり、そこから日程の調整が始まります。
考え方は国税庁「調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)」に示されています。
この「相当の時間的余裕」の部分が、事務所側の準備の時間になります。 通知を受けてから調査当日までのあいだに、帳簿書類の確認や顧客との打ち合わせが入ります。求人票の「立会い」という言葉は当日の同席だけを指しているように見えますが、制度上の手続きは通知の時点から始まっています。
通知される項目は、定められている
事前通知は「調査に行きます」という連絡だけではありません。通知する事項が定められています。
- 実地の調査において質問検査等を行う旨
- 調査の開始日時
- 調査を行う場所
- 調査の目的
- 調査の対象となる税目
- 調査の対象となる課税期間
- 調査の対象となる帳簿書類その他の物件
税目と課税期間、そして対象になる帳簿書類まで、あらかじめ示される形です。
この点が、準備の中身を決めます。 何の税目のどの期間が見られるかが分かっているので、当日までに揃えるものの範囲が定まります。 事務所の担当者が調査前に動くのは、この範囲に対してです。
事前通知が行われない場合もある
原則には例外があります。課税の公平確保の観点から、一定の場合には事前通知を行わないこととされています。
国税庁は、税務署などが保有する情報から、事前通知を行うことにより正確な事実の把握を困難にする、または調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められる場合には、事前通知をせずに調査を行うことがあると説明しています。
また、事前通知を行うため相応の努力をして電話などによる連絡を行おうとしたものの、応答を拒否され、または応答がなかった場合も、事前通知をしないことができるとされています。
説明は国税庁「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」にあります。
通知がない場合があるということは、事務所側から見れば予定に組み込めない対応が発生し得るということです。 求人票の業務内容には現れませんが、手続きの側にはこの例外が置かれています。
事前通知は、税理士に対して行われることがある
ここが、税理士の関わる位置を決めている部分です。
納税者に税務代理権限証書を提出している税理士がいる場合で、その税務代理権限証書に、納税者への事前通知は当該税務代理人に対して行われることについて同意する旨の記載があるときは、納税者への事前通知は、その税務代理人に対して行えば足りることとされました。
つまり書面上の記載によって、通知の窓口が税理士になります。
国税庁は、税務代理権限証書を作成する際には、納税者にこの制度を説明し、納税者から事前通知に関する同意が示された場合には、税務代理権限証書にその旨を確実に記載するよう求めています。
税務代理人が複数いる場合
税務代理人が複数いる場合の定めもあります。
納税義務者に税務代理人が数人ある場合において、これらの税務代理人が提出した税務代理権限証書において代表する税務代理人の定めがあるときは、これらの税務代理人への事前通知は、その代表する税務代理人に対して行えば足りるとされています。
そして代表する税務代理人以外への事前通知は行われないため、他の税務代理人へ通知事項を伝えるよう、代表する税務代理人に連絡することに留意するとされています。
この定めは、事務所内での情報の流れを説明します。 通知は代表の1人に入り、そこから他へ伝わる形になります。誰が代表として記載されているかが、通知を受ける人を決めます。
税理士側の手続きについては国税庁「税務調査手続に関するFAQ(税理士向け)」に説明があります。
調査の終わり方は、2つに分かれる
調査には終了の際の手続きも定められています。そして終わり方が2つに分かれます。
- 更正決定等をすべきと認められない場合
その旨を通知する書面が交付されます。調査の結果として、申告の内容を直す必要がないと判断された場合の形です。
- 更正決定等をすべきと認められる非違がある場合
納税義務者に対し、その非違の内容等(税目、課税期間、更正決定等をすべきと認める金額、その理由など)について原則として口頭により説明されます。あわせて、調査結果の内容の説明等をもって原則として一連の調査手続が終了する旨が説明されます。
書面で終わるか、口頭の説明で終わるかが、判断の内容によって分かれる形です。
非違がある場合、修正申告が勧奨されることがある
非違があるとされた場合、そこから先の手続きがあります。
調査の結果として非違がある場合、課税庁は修正申告または期限後申告を勧奨することがあります。 そして勧奨する場合には、その申告書を提出すると不服申立てをすることはできないが、更正の請求をすることはできる旨が説明されます。
この説明は、書面でも交付されます。 口頭の説明だけで終わらせず、法的な効果を記載した書面が渡される形です。
つまり調査結果の説明を受けた後、応じるかどうかの判断が残ります。 修正申告に応じるという選択と、そうしないという選択で、その後に取れる手続きが変わる。事務所の担当者が顧客に説明するのは、この判断の材料です。
説明は国税庁「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」にあります。
説明を税理士が受ける場合
この終了の際の手続きにも、税務代理人が関わる部分があります。
税務代理権限証書の様式には「調査の終了の際の手続に関する同意」欄が設けられています。 提出済みの税務代理権限証書にこの同意が記載されていれば、税務代理人に対して説明を行うこととなります。
事前通知と同じ構造です。 書面上の記載によって、説明を受ける相手が税理士になります。求人票の「調査対応」という言葉には、この説明を受けて内容を顧客に伝えるところまでが含まれます。
通知を受けても、再調査はあり得る
もう1つ、終了の際の手続きについての定めがあります。
実地の調査が終了し、「更正決定等をすべきと認められない」旨を通知する書面を受け取った場合でも、新たに得られた情報に照らして非違があると認めるときなど、法令上定められている要件に該当する場合には、既に調査の対象となった税目・課税期間であっても再調査を実施することがあるとされています。
つまり書面を受け取ったことは、その期間について今後一切調査されないという意味ではありません。
この点は、調査が終わった後の対応が続き得ることを示します。 事務所側から見れば、書面を受け取った時点で案件が完全に閉じるわけではないという形になります。
よくある質問
- 税務調査は、事前に連絡が来るのですか
原則として事前通知が行われます。実地の調査を行う場合には、調査の対象となる納税義務者および税務代理人の双方に対し、調査開始日前までに相当の時間的余裕をおいて、電話などにより通知することとされています。ただし例外もあります。
- 事前通知では、何が知らされるのですか
質問検査等を行う旨に加えて、調査の開始日時・場所・目的・対象となる税目・対象となる課税期間・対象となる帳簿書類その他の物件が通知されます。
- 事前通知なしで調査が行われることはあるのですか
あります。事前通知を行うことにより正確な事実の把握を困難にする、または調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められる場合には、事前通知をせずに調査が行われることがあります。また事前通知のための連絡に応答が得られなかった場合も、事前通知をしないことができるとされています。
- 事前通知は、税理士に来るのですか、本人に来るのですか
税務代理権限証書の記載によって変わります。納税者への事前通知は当該税務代理人に対して行われることについて同意する旨の記載があるときは、税務代理人に対して行えば足りることとされています。
- 税理士が複数いる場合はどうなるのですか
税務代理権限証書において代表する税務代理人の定めがあるときは、その代表する税務代理人に対して行えば足りるとされています。代表以外への事前通知は行われないため、代表する税務代理人が他の税務代理人へ通知事項を伝える形になります。
- 調査はどうやって終わるのですか
2つに分かれます。更正決定等をすべきと認められない場合は、その旨を通知する書面が交付されます。非違がある場合は、その内容等について原則として口頭により説明されます。
- 調査で誤りがあるとされたら、そのまま確定するのですか
非違がある場合、修正申告または期限後申告が勧奨されることがあります。勧奨する場合には、その申告書を提出すると不服申立てをすることはできないが、更正の請求をすることはできる旨が説明され、その旨を記載した書面も交付されます。
- 「更正決定等をすべきと認められない」通知を受けたら、もう調査はないのですか
そうとは限りません。新たに得られた情報に照らして非違があると認めるときなど、法令上定められている要件に該当する場合には、既に調査の対象となった税目・課税期間であっても再調査が実施されることがあるとされています。
まとめ
- 税務調査は、原則として事前に通知される。 納税義務者と税務代理人の双方に対し、相当の時間的余裕をおいて通知することとされています
- 通知される項目は定められている。 開始日時・場所・目的・税目・課税期間・対象となる帳簿書類その他の物件です
- 例外がある。 正確な事実の把握を困難にするおそれなどが認められる場合、事前通知は行われません
- 事前通知の相手は、税務代理権限証書の記載で変わる。 同意する旨の記載があれば、税務代理人に対して行えば足りることとされています
- 税務代理人が複数いる場合は、代表する税務代理人に通知される。 代表以外へは通知されないため、代表から他へ伝える形になります
- 終わり方は2つ。 更正決定等をすべきと認められない場合は書面、非違がある場合は原則として口頭の説明です
- 終了の際の説明も、同意欄の記載で税務代理人が受ける形になる。 税務代理権限証書の様式に欄が設けられています
- 非違がある場合、修正申告が勧奨されることがある。 提出すると不服申立てはできないが更正の請求はできる旨が説明され、その旨を記載した書面も交付されます
- 書面を受け取っても、再調査はあり得る。 法令上の要件に該当する場合、既に対象となった税目・課税期間でも実施されることがあります
求人票の「税務調査の立会い」という言葉が指しているのは、当日の同席だけではありません。 通知を受ける、対象の範囲に対して準備する、終了の際の説明を受けて顧客に伝える——制度の手続きに沿った一連の流れが、その言葉の中にあります。
事務所と法人の制度上の違いや、そこで働く税理士の立場については、税理士事務所と税理士法人の違い、そこで働く立場と規律で整理しています。
