税理士事務所と税理士法人の違い、そこで働く立場と規律

会計・税務の求人を見ていると、「会計事務所」「税理士事務所」「税理士法人」という3つの呼び方が並びます。同じものを指しているのか、違うものなのかが分かりません。

制度の側から見ると、定められているのは2つです。「税理士事務所」と「税理士法人」。 そしてもう1つ、求人票には書かれない区分があります。そこで働く税理士自身の立場が、3つに分かれるというものです。

この記事では、組織としての2つの形、税理士の3つの立場、そして資格の有無にかかわらず及ぶ規律を、国税庁の公表情報にもとづいて整理します。

税理士事務所とは、業務の本拠のこと

まず「税理士事務所」です。これは建物や看板の話ではありません。

国税庁は、税理士業務を行うための事務所を「税理士業務の本拠」と説明しています。そして本拠であるかどうかは、委嘱者などに示す連絡先といった、外部に対する表示に係る客観的な事実によって判定されます。

つまり、どこを本拠として外に示しているかで決まるという考え方です。実態がどうであれ、外部に対してその場所を業務の窓口として示していれば、そこが税理士事務所として扱われます。

説明は国税庁「税理士制度のQ&A」5にあります。

なお「会計事務所」という呼び方は、制度上の区分ではありません。 税理士法が定めているのは税理士事務所と税理士法人で、求人でよく見る「会計事務所」は、この2つを含む一般的な言い方として使われています。求人票の呼び方から組織の形を読み取ることはできません。

事務所は、税理士1人につき1つ

税理士事務所には、設置の数についての定めがあります。

個人の税理士は、税理士事務所を2つ以上設けてはならないとされています。税理士1人につき1事務所という形です。

このため、個人の税理士が拠点を増やしていくことは制度上できません。 求人で「複数拠点」「支店あり」と書かれている事務所は、この点から見ると法人であるか、あるいは別の税理士がそれぞれの拠点で登録している構造になります。

税理士法人は、税理士が共同して設立する法人

もう1つの形が税理士法人です。

税理士法人は、税理士業務を組織的に行うことを目的として、税理士が共同して設立する法人です。納税者の利便性にかなうことを目的としたものと説明されています。

そして設立の登記をすることによって成立し、成立の時に事務所所在地の税理士会の会員となります。

業務の範囲は、定款で決まる部分がある

税理士法人が行える業務には段階があります。

  • 基本的な業務——税理士法第2条第1項に規定する税理士業務
  • 定款で定めれば行えるもの——同条第2項の業務、およびその他の業務で税理士が行うことができるものとして財務省令で定める業務の全部または一部

つまり税理士法人でも、定款に書かれていなければ行えない業務があります。 会計業務やコンサルティングまで扱うかは、その法人の定款次第という部分が出てきます。

事務所ごとに、社員税理士を常駐させる

税理士法人の事務所には、人の配置についての定めがあります。

税理士法人の事務所には、従たる事務所を含めて、各事務所に社員を常駐させなければなりません。 常駐させるのは、その事務所の所在地を含む区域に設立されている税理士会の会員である社員です。

ここが、拠点数と社員税理士の人数を結びつけます。 法人が拠点を増やすには、その拠点に常駐する社員税理士が必要になる。つまり支店の展開が、社員税理士を増やす必要と同時に進むという構造です。

求人で「支店拡大中」と書かれている法人は、この点で社員になるルートを持っている可能性があります。 ただし社員になることは責任の範囲が変わることでもあるので、後述の内容と合わせて見る話になります。

制度の説明は国税庁「税理士制度のQ&A」7にあります。

税理士の登録区分は、3つに分かれる

ここが求人票に書かれない部分です。

税理士登録は、開業税理士・所属税理士・社員税理士のうち、いずれか1つの区分で行わなければなりません。 そしてこの区分は、その税理士が行っている業務形態に応じて決まります。

区分どういう立場か
開業税理士納税者などとの委嘱契約に基づいて、自分で税理士業務を行う
所属税理士委嘱契約を締結せず、補助者として税理士業務を行う
社員税理士税理士法人の社員として業務を行う

判断の基本になるのは、納税者との委嘱契約があるかどうかです。とくに開業税理士と所属税理士の違いは、ここで分かれます。契約の当事者になっているか、それとも補助者として関わっているか。

登録の区分については国税庁「税理士の登録」に説明があります。

この3つは、キャリアの段階とほぼ対応します。 事務所や法人に勤めるあいだは所属税理士、独立すれば開業税理士、法人の社員になれば社員税理士。転職や独立で立場が変わるとき、登録区分も変わるということです。

所属税理士は、原則として直接受任できない

3つの区分のうち、勤める立場である所属税理士には制約があります。

所属税理士は、原則として開業税理士または税理士法人の補助者として業務に従事し、納税者などから直接委嘱を受けることはできません。

つまり資格を持っていても、勤めているあいだは自分の名前で仕事を受けられないという形です。これは能力の問題ではなく、登録区分に伴う制度上の位置づけです。

例外:承諾を得れば直接受任できる

ただし例外があります。

所属税理士は、使用者である税理士または税理士法人の承諾を条件に、納税者などとの委嘱契約に基づいて税理士業務を行うことができます。

そして直接受任した場合、税務書類などに付記すべきことが定められています。

  • 所属税理士である旨
  • 勤務する税理士事務所の名称、または所属する税理士法人の名称
  • 直接受任である旨

つまり直接受任したことが書類の上で分かる形になっています。 勤務先を明かさずに個人で受けるということができない設計です。

詳細は国税庁「税理士制度のQ&A」3にあります。

この点は、勤めながら自分の顧客を持ちたいと考える場合に効いてきます。 制度上は可能ですが、使用者の承諾が前提で、かつ書類にその旨が残るという条件付きです。

社員税理士には、法人の債務への責任が伴う

もう1つ、求人票にはまず書かれない事実があります。税理士法人の社員になると、責任の範囲が変わります。

税理士法人の社員は、その法人の債務について、債権者に対して直接に連帯無限の責任を負担するものとされています。

「社員」という言葉は日常語では従業員を指しますが、ここでの社員は法人の構成員です。株式会社の従業員とは位置づけが違い、法人が負った債務に対して個人が直接責任を負うという構造になっています。

競業も禁じられている

責任のほかに、行えないことが定められています。

  • 自己または第三者のために、その税理士法人の業務の範囲に属する業務を行ってはならない
  • 他の税理士法人の社員にはなれない
  • 税理士業務に付随して行う会計業務等と同じ事業内容の、他の会社の無限責任社員や取締役にもなれない

つまり社員税理士になると、外で同種の仕事をすることが制度上できません。 副業や兼業を考える場合、この制約が先に効きます。

社員税理士は、所属税理士から見れば昇格のように見えますが、制度上は別の立場に移ることです。 責任の範囲と、外での活動の自由度が変わります。

資格の有無にかかわらず、事務所の規律の下に入る

ここまでは税理士自身の話ですが、事務所で働く人には資格を持たない人も含まれます。その人たちにも及ぶ定めがあります。

1つは秘密を守る義務です。税理士および税理士であった者は、正当な理由がなく、税理士業務に関して知り得た秘密を他に洩らし、または窃用してはならないとされています。そして同様の義務が、税理士または税理士法人の使用人その他の従業者にも及びます。

もう1つが使用人等に対する監督義務です。税理士は、使用人その他の従業者に税理士業務の補助をさせる場合、その者が税理士法に違反する行為を行わないよう監督しなければなりません。

監督義務は、事務所の管理体制まで見られる

この監督義務は、事務所の側から見ると重い定めになっています。

使用人が不正行為を行った場合、監督する税理士がその不正行為を認識していたときは、自ら行ったものとして懲戒処分の対象とされます。そして認識していなかった場合でも、内部規律や事務所の管理体制が不十分であったときは、過失によるものとして懲戒処分の対象になり得ます。

つまり事務所側は、個々の担当者の行為だけでなく、管理の仕組みそのものについて責任を問われます。

この定めは、無資格のスタッフとして働く場合の位置づけを説明します。 税理士業務そのものを自分の名前で行うことはできない一方で、補助として関わる範囲には、資格者と同じ守秘の義務が及ぶという形です。事務所が業務の進め方や記録の残し方を細かく定めているとき、その背景には監督義務があります。

説明は国税庁「税理士制度のQ&A」6にあります。

よくある質問

「会計事務所」と「税理士事務所」は違うものですか

制度が定めているのは「税理士事務所」と「税理士法人」の2つで、「会計事務所」は制度上の区分ではありません。求人でよく見る「会計事務所」は、この2つを含む一般的な言い方として使われています。呼び方から組織の形を読み取ることはできません。

税理士事務所と税理士法人では、扱える業務が違うのですか

税理士業務そのものはどちらも行えます。ただし税理士法人の場合、税理士業務以外の業務を行えるかは定款の定めによります。会計業務やその他の業務まで扱うかは、その法人ごとに違います。

複数の拠点を持つ事務所は、どういう形になっているのですか

個人の税理士は税理士事務所を2つ以上設けることができません。税理士法人の場合は従たる事務所を持てますが、各事務所に社員を常駐させる必要があります。常駐させるのは、その事務所の所在地を含む区域に設立されている税理士会の会員である社員です。

勤めている税理士は、自分で顧客を持てないのですか

所属税理士は原則として直接委嘱を受けられません。ただし使用者である税理士または税理士法人の承諾を条件に、直接受任することができます。その場合は税務書類に、所属税理士である旨・勤務先の名称・直接受任である旨を付記します。

税理士法人の「社員」は、従業員のことですか

違います。ここでの社員は法人の構成員で、法人の債務について債権者に対して直接に連帯無限の責任を負担します。加えて、その法人の業務範囲に属する業務を自己または第三者のために行うことや、他の税理士法人の社員になることが禁じられています。

登録区分は自分で選べるのですか

選ぶものではなく、行っている業務形態に応じて決まります。納税者との委嘱契約に基づいて業務を行っているか、補助者として行っているか、税理士法人の社員であるかで区分されます。

資格を持たないスタッフにも、守秘の義務はありますか

あります。税理士または税理士法人の使用人その他の従業者にも、税理士と同様に秘密を守る義務が及びます。また税理士の側には、使用人が税理士法に違反する行為を行わないよう監督する義務があります。

まとめ

  • 制度が定めているのは2つ。 税理士事務所と税理士法人で、「会計事務所」は制度上の区分ではありません
  • 税理士事務所とは、業務の本拠のこと。 外部に対する表示に係る客観的な事実で判定されます
  • 個人の税理士は、事務所を2つ以上設けられない。 税理士1人につき1事務所です
  • 税理士法人は、税理士が共同して設立する法人。 設立の登記で成立し、その時に事務所所在地の税理士会の会員になります
  • 税理士法人の各事務所には、社員を常駐させる必要がある。 従たる事務所も含みます
  • 税理士法人の業務範囲は、定款で決まる部分がある。 税理士業務以外を扱うかは法人ごとに違います
  • 税理士の登録区分は3つ。 開業・所属・社員のいずれか1つで、業務形態に応じて決まります
  • 所属税理士は、原則として直接受任できない。 例外は使用者の承諾が前提で、書類に付記が必要です
  • 社員税理士には、法人の債務への連帯無限責任が伴う。 加えて競業が禁じられ、他の税理士法人の社員にもなれません
  • 秘密を守る義務は、使用人その他の従業者にも及ぶ。 税理士の側には、使用人への監督義務があります

この3つの区分は、キャリアの段階とほぼ対応します。 勤めるあいだは所属税理士、独立すれば開業税理士、法人の社員になれば社員税理士。求人票には書かれませんが、立場が変わると制度上できることも変わります。

資格そのものと担える仕事の範囲については、会計・税務の資格と、担える仕事の範囲で整理しています。